KNFの真空ポンプと真空システムは、ドイツ・ニュルンベルク大学(FAU)における科学研究で採用されています。
国際宇宙ステーション(ISS)の6人の宇宙飛行士は、毎日時速28,000キロメートルの高速で時空を移動し、24時間に16回地球を周回しています。クルーが生存していられるのは、飛行する「生活空間と作業空間」が極端な環境に耐える設計がされているからです。ISSは必要な安定性を提供し、ISSのシェルとガラスが熱や寒さ、そして圧力損失から内部を保護しています。また、宇宙空間で地球と同じ生活環境に少しでも近づけるための工夫もされています。宇宙飛行士の生存は、あらゆるシステムとコンポーネントの信頼性にかかっているのです。
当社は、パートナー企業の推薦により、ISSの使用済み空気のリサイクルに使用するポンプの引き合いを受けました。そのようなプロジェクトに対する技術要件は膨大で、相互の協力と共同作業がうまくかみ合わなければなりません。
当社のエンジニアリングチームは、4年の年月を費やしてエアバス・ディフェンス・アンド・スペースと共同で液体ポンプの開発に取り組みました。エアバス・ディフェンス・アンド・スペースはエアバスグループの子会社で、軍用航空、軍用/民間の航空宇宙システム、防衛およびセキュリティ用のセンサーと通信技術を専門としています。
宇宙空間で使用するポンプは、2018年の秋に完成しました。最終的に、2個のポンプが新しい生命維持ラックの中に組み込まれました。高度閉ループシステム(Advanced Closed Loop System; ACLS)として知られているこのユニットは、宇宙船内の空気から二酸化炭素を回収し、電気分解によってクルーのために新鮮な酸素を生成する役割を果たします。新しいACLSラックは、ESAのドイツ人宇宙飛行士Alexander GerstがコマンダーとしてISSに搭乗していた2018年11月2日にISSのデスティニーモジュールの中に設置されました。
2個のダイヤフラムポンプは、水から酸素と水素を生成する電解槽で使用されました。供給水はポンプによってポリ袋からACLSの中に圧送されます。まず、室内の空気中に含まれる二酸化炭素をメタンと水に変換させて酸素を抽出します。このプロセスは水素を必要としますが、水素は水分子を分解してエネルギーを供給することによって得られます。こうして、電気分解により、水から呼吸可能な酸素が抽出されるのです。
酸素のリサイクルにより、年間450キログラムの水負荷を節約
エアバスによれば、このシステムは3人の宇宙飛行士のクルー向けに設計されたもので、予測では年間の水負荷を450キログラム節約するとのことでした。総重量の1キロ当たり価格が33,000ユーロとして、ACLSは約1,500万ユーロの経費を削減することになります。フルパワーでACLSを作動させると、一日当たり3キログラムのCO2が抽出され、2.5キログラムの酸素が供給され、1.2キログラムの水が生成されます。
宇宙空間で全プロセスを安全に実施するためには、極めて信頼性の高いコンポーネントとシステムが必要でした。従って、ポンプ設計に対しても高い要件が課せられました。結局のところ、地表400キロメートルの高度では、故障したコンポーネントを適切な短い時間で交換することはできません。
この場合、開発者は、地球上でパワフルに働き、耐久性と効率に優れ、かつ実績もある超小型の流体ポンプを意図的に選択しました。とはいえ、彼らは48カ月の間に新しい仕様を何度も試しました。エンジニアリングチームは、使用する標準ポンプのキーコンポーネントを維持し、その信頼性を確実に保証するという課題に直面しました。同時に、宇宙空間に適したポンプにするために大幅な構造変更も行ったのです。ポンプは何度も改良されました。ハウジングをステンレス鋼で作り、真空ボールベアリングを最適化し、流体接続のために接続金具をステンレス鋼で製造しました。さらに、エンジニアたちは、省スペースの駆動モーターを統合する問題にも取り組まなければなりませんでした。
このように挑戦的なタスクは可能性の枠を押し広げ、毎年、世界中のポンププロジェクトの受注にプラスの効果を生み出しています。そのほとんどがサクセスストーリーとなり、このスペースポンプもその例外ではありません。