事例紹介

小児用(人工)心臓

Berlin Heart 社は、精度の持続性と静かな作動が特徴の KNFダイアフラムポンプを補助人工心臓に採用しています

私たちの心臓は自然が生み出した奇跡です。心臓は一日に最大 10 万回も休みなく鼓動を繰り返しています。これは健康な人にとって当たり前のことでしょう。しかし、緊急に新しい心臓を必要としている心臓病の患者となると状況は異なります。彼らが生存できる可能性は、適合する心臓移植ドナーが見つかるかどうかにかかっています。しかし、そこに至るまでには長く待たなければなりません。その移植待機期間において患者の助けになるのが補助人工心臓 (VAD) です。Berlin Heart 社の EXCOR® Pediatric システムは、その中でも特に注目されている製品です。これは、小児および乳幼児への使用が承認されている世界で唯一の補助人工心臓です。このシステムの設置式駆動ユニットのために、KNF は高度にカスタマイズしたダイヤフラムガスポンプをコンポーネントとして提供しています。

補助人工心臓のベンチャーからヨーロッパの市場リーダーへ

 

国際的な医療機器メーカーである Berlin Heart GmbH 社は本社がベルリンにあるというだけではなく、会社自体がベルリンと深い関わりを持っています。この会社の歴史は、80 年代後半にベルリンの心臓センターから分離独立したことから始まります。Berlin Heart 社は、臨床医と開発者が主体となって Fehling Medical 社による支援を受けて最終的に 1996 年に現在の形で設立されました。その後、会社は補助人工心臓の先駆けとしてヨーロッパにおける市場リーダーにまで成長し、現在では 200 人を超える従業員が働いています。

写真提供: Berlin Heart GmbH
写真提供: Berlin Heart GmbH

心不全患者の心臓機能をシミュレートする機械式血液ポンプ

この会社の主力製品は EXCOR® という血液ポンプです。このポンプは、心不全患者のために心臓機能を引き受けるデュアルチャンバーポンプです。このポンプが患者の身体に取り付けられ、カニューレを介して心臓と血管に接続されます。駆動ユニットがコンプレッサーを使って圧力と真空を生成します。血液ポンプを 2 つのチャンバーに分割している 3 層のダイヤフラムがそれによって動かされることで、血液の流れを作るという仕組みです。

90 年代になって、Berlin Heart 社は小児用心臓ポンプ EXCOR® Pediatric を世界に先駆けて開発し、大きな成功を収めました。当時、この会社は付属の設置式駆動ユニット Ikus に搭載するコンプレッサーを開発するために信頼できるパートナーを探していました。1993 年、Berlin Heart 社はそのパートナーにダイヤフラムポンプメーカー KNF を選びました。

Berlin Heart 社製駆動ユニット Ikus。写真提供: Berlin Heart GmbH
Berlin Heart 社製駆動ユニット Ikus。写真提供: Berlin Heart GmbH

品質管理と信頼性により、迅速なプロジェクトの実現が可能に

治療期間は数ヶ月から数年に及ぶため、EXCOR® とすべてのコンポーネントは長期間の使用を前提に設計されています。従って、駆動ユニット用 KNF ダイヤフラムガスポンプの開発には医療機器メーカー側の明確な規定がありました。性能と耐久性以外に、治療中の患者のクオリティ・オブ・ライフを改善するためには静かな作動も特に重要な条件になります。KNF のダイヤフラム真空ポンプはこれらの点で Berlin Heart 社の開発者を納得させることができました。この提携関係は、さらに実績のある「KNF モジュールシステム」によるメリットも生みました。

KNF モジュールシステムには実証済みのポンプコンポーネントが採用されており、これは Berlin Heart 社の個別のプロジェクト要件に合わせて調整されています。「当社独自の要件にもかかわらず、ダイアフラムポンプを完全に新開発する必要はありませんでした」と Berlin Heart 社のサステイニングエンジニアリングのチームリーダー Daniel Hartmann は話します。「その代わりに、実績と信頼性のある試験済みの KNF モジュールシステムのコンポーネントを採用することができました。このことは、信頼性のある駆動システムを短期間で開発するという希望に沿うものでした」

このモジュールシステムを使って Berlin Heart 社と KNF の開発チームはパラメータを共同で最適化し、「N 023.1.2」ポンプの量産モデルを最適な形で顧客固有の要件に適合させました。なによりも、特別に調整された中間プレートと特殊なシリコン配線が実装されています。全コンポーネントを慎重に調整することで、Berlin Heart 社の EXCOR® Pediatric は、米国市場での市販前承認を獲得することができました。

KNF モジュールシステムを使用し、量産モデル N 023.1.2 は体外式補助人工心臓の特殊な要件に合わせて調整されました。
KNF モジュールシステムを使用し、量産モデル N 023.1.2 は体外式補助人工心臓の特殊な要件に合わせて調整されました。

命を救いたいという気持ちが成功の原動力に

 

2 年間の集中的な開発作業の後、その適用においても納得のいく結果が示されました。1994 年以来、小児、幼児、乳幼児用に唯一承認されている VAD によって、すでに 2,500 人以上の命が救われています。「小児の場合は特に、使用に成功したという市場からの報告を聞く度に、新しい力が生まれ、喜びで満たされています。これこそが、Berlin Heart 社の原動力です」と Hartmann は言います。長年にわたり、この会社は多くの市場を開拓してきました。2005 年には米国に子会社の Berlin Heart Inc. が設立され、2017 年には EXCOR® Pediatric が FDA による完全な市場前承認 (Premarket Approval, PMA) を与えられています。2015 年にはこのシステムが初めて日本の患者に適用され成功を収めています。今やアジア市場は EXCOR® Pediatric の大きなユーザーグループのひとつに属しています。現在では、人工心臓の使用が成功していない地域は世界中のどこにもありません。

 

新しい市場の開拓には継続的な開発が必要

 

新しい市場の開拓と共に、心臓ポンプに対する要件も変化します。例えば駆動システムの電圧は、各国の仕様に応じて変更する必要があります。ここでもまた、Berlin Heart 社は KNF の専門知識を頼りにしています。長年にわたり、KNF は新しい要件に沿ってソリューションの開発を進めてきました。「当社の製品は 5 種類の異なる電圧仕様に対応しているため、ほぼ全世界でこのシステムを実際に使用することができます」と Hartmann は言います。「プロジェクト全体を通して、KNF は常に私たちの問題と懸案事項に対応し、その解決に積極的に取り組んでいます。また、当社のアプリケーションが本当に高く評価されていることも常に感じていました。この共同作業は、今でも大きな楽しみになっています」

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